『ムーンライト』 どこまでがリアルでどこまでがフィクションなのか分からない自分に気づく映画
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最終更新日:2019/01/20
映画

『ムーンライト』リアルとはなんなのか?
どうも、GANO(@Past_Orange)です。
2017年3月31日に日本でも公開となった映画『ムーンライト』を観てきました!
ゴールデン・グローブ賞では映画部門 作品賞、アカデミー賞でも作品賞などを受賞(ラ・ラ・ランドかと思ったら)し、話題となっています。
というか日本的には、あのラ・ラ・ランドを倒した映画があるらしいぞ! みたいなダークホース的位置に置かれているような気もします。それだけラ・ラ・ランドの話題もすごかったってことですね。
では、まず予告編を観ていきましょう!
映画『ムーンライト』日本オリジナル予告
どうですかね。ラ・ラ・ランドが作品賞獲ると思ってたのに、ムーンライトってどんな映画なのよ! ってな気持ちで観た方は、その温度差に驚くんじゃないでしょうか。
ラ・ラ・ランドが夢を見せる映画なら、ムーンライトは現実を見せる映画。
ラ・ラ・ランドが白人中心の映画なら、ムーンライトは黒人中心の映画。
まったくもって対照的です。
『ムーンライト』はこんな人にオススメ!
どんな人が『ムーンライト』を楽しめるか考えてみました。
・人種、LGBTQ、いじめ問題に関心がある方
・派手さよりも深さを求める方
・自分自身の内面と向き合いたい方
人種差別がこの作品にあるかと言えば、作品内ではないでしょう。しかし、作中には登場人物が黒人であることを話す場面があります。またLGBTQやいじめについても深く考えさせられる作品となっています。
その一方で派手さであったり、物語のヤマ場などはありません。そういったものが好きな方には向かないですね。
あとこれR15指定されています。性描写も暴力行為もそこまでありませんが、生々しさを感じる部分はあると思います。
人を選ぶ映画なのかもしれませんが、自分自身について、考えるきっかけとなる映画だと僕は思います。ぜひ観て欲しい。
ではネタバレを含んだ感想を載せていきますね!
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『ムーンライト』で、母親との関係を考える
『ムーンライト』の主人公であるシャロン。彼の成長を子供(小学生)・10代(高校生)・大人の3部構成で追っていく映画になっています。
シャロンの苦しみの1つは母親ポーラの存在。何らかの理由で母子家庭となった2人の生活が痛々しくスクリーンに映し出されます。
薬物依存症である母ポーラは、シャロンを甘やかしたと思えば強く当たったり。薬が切れたイライラをシャロンにぶつけ、お金もなくシャロンから有り金をふんだくります。
肉体的な虐待は受けていないようでしたが、言葉の暴力は凄まじかったことが伺えます。それでも子供であるシャロンはたった1人の母親の元に帰るしかない。
逃げ場のなさだけでなく、たまに受ける母親からの優しさがよりシャロンの心を痛めつけるのでしょう。
どんなに愛情を受けようと他人は他人、血の繋がった私こそが本当の母親だと叫ぶポーラの姿は、とても痛々しく悲しくなりました。
どんなに虐待しようと、息子への愛情が見え隠れしてしまうポーラ。それが伝わるシャロン。
この関係性に心を締め付けられます。矛盾だらけのポーラの姿に、人間の弱さを感じます。
『ムーンライト』で、他人を受け入れる強さを考える
『ムーンライト』にて一番魅力的であったのが、赤の他人であるシャロンを受け入れてくれたヤク売人のフアン。
母子家庭で育ったシャロンの、第2の家となってくれたのがフアンとその恋人テレサです。
シャロンにとってポーラは帰らなければいけない場所だったのに対し、フアンは帰りたい場所でした。父親であり、友人でもあったように感じます。
フアンとテレサの無償の愛は、シャロンの固く閉ざされた心をほぐしていきます。
どこの誰かもしれない子供に、ご飯を食べさせ寝る場所を与え、泳ぎ方や生き方を教える。フアンが本当の父親だったらと、シャロンも思ったことでしょう。
しかしフアンはヤクの売人、母親ポーラにヤクを売っているわけです。
シャロンの心をズタズタにする薬物依存症のポーラを生み出したのは、フアンである。そう考えることもできてしまいます。矛盾が生まれてしまうんですね。
シャロンにもその事実はすぐ伝わり、フアンは心を痛めます。なぜ自分はこんな立場なのかと。
・・・
シャロンが高校生になるときには、フアンはもう亡くなっていました。テレサの「あなたはフアンと仲良しだったから」という言葉でフアンが亡くなったことがわかるのですが、その瞬間は衝撃と悲しさで泣きそうになりました。
ヤクの売人だったから、何かに巻き込まれて亡くなったのかもしれません。
フアンの死は、シャロンをまた孤独に追いやったことでしょう。
『ムーンライト』で、いじめ問題を考える
映画スタートから高校生になるまで、ずっとシャロンはいじめを受けています。
理由は「オカマ野郎」だから。なぜそう言われるのかはわかりませんが、母親ポーラの「あの子の歩き方を見たことあるかい?」であったり、常にうつむき姿勢、疑心暗鬼な態度がそう思わせるのかもしれません。
日本のいじめとの違いは、おおっぴらに暴行されているところでしょうか。日本だったらすぐ誰かが止めに来るだろう場面も、作中ではコトが大きくならないと誰も止めてはくれません。
当たり前にいじめが存在している学校生活を見せられます。これが現実?
いじめを受けている本人の孤独を強く感じる映画となっています。
ぜひ10代の子供たちにも観て考えて欲しいのですが、R15指定になっているのでね。
でも大人でも普通にいじめがありますもんね。他者の気持ちを考えるきっかけになる映画だと思います。
『ムーンライト』で、LGBTQについて考える
主人公のシャロンは男性として男性が好きでした。作中ではゲイと表現されていますが、シャロン自身がゲイであると言ったわけではないので、どのように表現すべきかは難しい問題だと思います。
セクシャルマイノリティと呼ばれる方達に対する、周りからの風当たりはまだまだ強いと本作で感じました。
2015年にはアメリカでも同性婚が可能となったため、アメリカ国内ではそういったセクシャルマイノリティに寛容だと思っていたのですが、そうでもないのかもしれません。
未だに肌の色で差別を受けることは多くあるでしょうし、性についても偏見がつきまとっているのが現実のようです。偏見というのは、他者に対しても自分に対してもですね。
問題は何も解決していない。そう感じずにはいられない内容でした。
じゃあマジョリティに対する接し方は問題ないの? と言われると、そんなこともないんですよね。
性に関することだけでなく、他者との関わり方、距離とは何かを考えるきっかけとなりました。
『ムーンライト』で、自分は何者なのかを考える
血縁という変えることのできない関係、友情と愛情、性、いじめ、人種。様々な問題を人は抱えています。抱えてしまうのが人なのでしょう。
音楽にはジャンル別けというものがあって、この曲はテクノなのハウスなのエレクトロなの? なんて悩むことがあります。
明確にテクノ! って言い切れるものって実はほとんどなくて、どれもジャンルを跨いでるんですよね。
例えば国境だとか、あれって実際に大陸に溝が元からあったわけではなくて、わかりやすくするために人間が線を引いているんですよね。
曖昧なものをわかりやすくするためのジャンル別け。自分はどのジャンルに入る人間なんだろう?
というか既存のジャンルに入ることが幸せなことなの?
決められたジャンルに入ることは他者に受け入れられやすいが、自分をまげることになるかもしれない。
そんなことを考えたくなる映画です。
最後に
日本人として生まれ、日本で過ごした僕自身、『ムーンライト』のどこからがフィクションでどこからがリアルなのか分かりませんでした。
原作者タレル・アルビン・マクレイニーの半自伝的作品だとも言われていますよね、これが現実なのでしょう。
日本人では内容がうまく飲み込めないと言いたいのではなく、飲み込めないことを受け止めることが大切だと思います。
そして、今『ムーンライト』が公開され評価されることにも意味があると感じます。
ジャンル別け、線引きできないことがほとんどだと、訴えてくるような映画でした。
GANO
歌のパワーを感じよう!


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