映画『ビール・ストリートの恋人たち』 小さな恋を守りたい人々と実情。問題は何も解決してはいない。
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映画『ビール・ストリートの恋人たち』 小さな恋を守りたい人々と実情
どうも、GANO(@Past_Orange)です。
2019年2月22日に日本でも公開となった『ビール・ストリートの恋人たち』を観てきました!
DCエクステンデッド・ユニバースの6作目に当たる作品ですね
では、まず予告編を観ていきましょう!
『ビール・ストリートの恋人たち』日本版本予告
恋と人種差別を扱った作品ですね。
作家ジェイムズ・ボールドウィンの小説『ビール・ストリートに口あらば』が原作です。映画も原題はこちらですね。
『ビール・ストリートの恋人たち』はこんな人にオススメ!
どんな人が『ビール・ストリートの恋人たち』を楽しめるか考えてみました。
・人種差別を肌で感じたことがある人
・しっとりとした映画を楽しみたい人
・美しい映像を楽しみたい人
こんな感じ。
まず人種差別問題ですね。この映画の中心となる問題です。ストレートに表現されていますので、少々辛くなるかもしれません。
そしてしっとりと映画を楽しみたい人。比較的静かな映画です。銃でドンパチシーンがないので、そういうのが苦手な人もOKです。
最後に美しい映像を楽しみたい人。予告でもわかるように暖かい色使いが多いです。この”多い”ってところがポイントだったり。
ではネタバレを含んだ感想を載せていきますね!
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『ビール・ストリートの恋人たち』 小さな恋と何も解決しない問題たち
この映画で描かれる恋は、とても素朴でありふれている小さな小さな恋だと僕は思います。
それはどこにでもある、誰でも経験するであろう普通の恋。これはどこにでもあるお話ですよ〜ってことですね。
19歳と22歳の恋ですから、大人と子供の境目ですよね。境目時期って長いなって思います。
そんな小さなありふれた恋にも降りかかる人種差別、これが本作品のテーマですね。
つまり人種差別はありふれているよってこととなります。当たり前のように差別されて生きている人たちがいるってお話なんですよね。
人種差別を正当化したジム・クロウ法(黒人差別的内容を含む法律の総称)が廃止されたのは1964年。本作の舞台は1970年代なので、ほんのちょっとの期間ですね。
廃止されたからと言って、その場できっぱり差別がなくなるかというと、そんなことはないです。
むしろジム・クロウ法が廃止されたことでおおっぴらに差別できなくなって、鬱憤が溜まっている時期だったように感じます。より陰湿になっていたのかも。
無実と分かりきっているにも関わらず刑務所から出られないでいる青年ファニーを救い出そうとする人々もまた、差別を受けている時代です。
本作では、様々な問題が出てきます。
白人以外は家を借りれない問題、職に就けない問題、ありえない罪とわかっていても取り合ってもらえない問題、お金がないので父親たちが犯罪を犯し続けてしまう問題、黒人女性は性的な目で常に見られる問題。
映画を観終わって僕たちはこうつぶやきます。
「何も解決してないよね?」
そう、何も解決していないんですこの映画。
ファニーは家を借りられない職に就けないどころか刑務所から出ることもできないまま映画は終わります。
若い弁護士のヘイワードは先輩弁護士たちから白い目で見られながらもファニーの無実を証明しようと働き続け、父親たちはその資金を集めるため服を盗み続けるでしょう。
ベル巡査のような警察はいなくならないし、ティッシュは白人男性に手の甲を嗅がれ続けるでしょう。
何も解決していないんです。2019年となった今も解決していないんだよってことなんだと僕は思います。
映画を観終わった今現在は、映画の舞台である1970年ごろから繋がっているんです。解決しないまま今になっていて、人種差別は残っている。
何も解決していないよね、まだまだ差別は根強いよね、君たちはこの映画を観てどう思うんだい? そんな風に問われているような気がします。
僕は悩ましい。僕自身が何か無意識のうちに差別をしてしまっているんじゃないか、小さくありふれた恋を踏みにじるような行為に及んでいないだろうか。
そんな気持ちになりました。僕が当時同じようにニューヨークで暮らしていたら同じような扱いを受けたでしょう。
その状況で、彼らのように信じて戦えるでしょうか。今現在同じような状況に置かれて戦えるでしょうか。
何も解決していないんです。
『ビール・ストリートの恋人たち』 優しくしてくれる人たちの存在
本作ではファニーとティッシュを差別する人々だけでなく、優しく接してくれる人たちも描いています。
まずティッシュの家族、とファニーのお父さんですね。無実を証明しようと走り回り、ティッシュには暖かい言葉をかけてくれます。
特に母シャロンのセリフ「愛を信じるならうろたえないで」は心に残ります。強い強い母の言葉。ティッシュも強い母になっていくのでしょうね。
若い白人弁護士ヘイワードも差別せずに精一杯頑張ってくれます。
これは若さからでしょうか。新しい考えを持っていて、正義感もあり戦ってくれます。若いが故に経験不足から上手くいかないのが悔しい部分。
スペイン料理店の店主ペドロシート、行きつけの売店のおばちゃん、不動産仲介のレヴィ。プエルトリコで罪悪感から手伝ってくれるピエトロも入れていいでしょうか。
ペドロシートはスペイン系、売店のおばちゃんはイタリア系、レヴィはユダヤ系です。
優しく接してくれる人たちはみんな他の国の人たちなんですよね。大なり小なり差別的な扱いを受けてきた人たちなのではないでしょうか。
特に不動産仲介のレヴィのこのセリフ「愛し合う人間が好きなんだ、色は関係ない。俺はただ母親の息子でしかない。人間の違いは母親が違うだけだ」はグッときました!
色なんて関係ないんですよね。母親が違うだけで、みんな同じ人間なんです。優しい言葉ですよね。
このセリフの後に「資金が用意できたら連絡してくれ」と言って音楽が流れるんだけど、もうその優しいやりとりと優しい音楽で僕は泣いちゃって泣いちゃって。
彼らのように、ただ1人の人間として相手と接するようになりたい、ならなければいけないと思いました。
『ビール・ストリートの恋人たち』 怒りから主語が大きくなってしまう
問題が解決せず先に進まず、現代まで続いてしまった理由の1つが本作でも表現されているなと僕は思ったんですけど。
非常に主語が大きいんですよね。差別する側も差別される側も。
黒人差別ということで差別する側は鬱憤を晴らせるなら誰でもいいんだなって感じなんですが、差別された側も個人ではなく「白人」や「警察」と言って批難しています。
車泥棒の濡れ衣により捕まったダニエルやティッシュの父親ジョーゼフがそうです。主語がでかくなってしまうが故に、いつまでも大多数を敵として扱ってしまう。
なので差別なく努力してくれる若き弁護士ヘイワードのことも、どことなく信用していないように表現されています。
ナレーションでティッシュは辛く当たってしまったことを後悔しているようなことを言っているんですが、家族全員がそう思えていたかは不明です。
優しく接してくれている人々はファニーやティッシュを1人の人間として見てくれるんですから、差別を受ける側も主語が大きくなってしまわないようにしないといけませんよね。
気持ちはわかるんだけど、でも主語が大きいと大切なことを見落としがちになってしまうから。
これはこの映画に限らずですよね。
何かを批判する際に、主語は大きくなってしまっていないか? 関係のない人々を巻き込んでいないか?
発言する前に一度踏みとどまって、無駄な争いを生まないようにしたいですね。
最後に
美しい映像と音楽で小さな恋にうっとりしつつ、根強い差別に涙する映画でした。
ファニージュニアは何の絵を描いていたのかな、彫刻作品を生み出すパパの姿でしょうか。
あの家族が幸せに暮らせる日が来るといいな。
GANO
スカッとして元気が出る映画です


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