歌詞の書き方。一人称・二人称の選び方は立場や年齢を決定する。僕にするか私にするか、気をつけて書こう

日本語は口数が少ない

どうも、GANO（@Past_Orange）です。

日本語の曲は英語の曲に比べて口数が少ないと感じたことはありませんか？また、英語に比べて日本語は情報量が少ないとも感じませんか？

現在日本の多くの歌モノ楽曲は『西洋の音楽に乗せて日本語を歌う』という形を取っています。日本語で歌うことを想定した作りになっていないので、どうしても英語など外国の言語より口数が少なくなってしまいます。

例えば英語で『I LOVE YOU』、日本語にすると『私はあなたを愛してる』です。

１小節内で『I LOVE YOU』と言う場合の１例です。このメッセージを日本語で同じ１小節内に収めようとすると

こうなります。ぎゅうぎゅうに詰まっちゃいますね！早口で気持ちが全くこもってない気もします。なるべく英語の歌詞と近い譜割りで歌いたいので、『わたしはあなたを』を省いてしまいましょう。

まだ英語より細かく刻んでしまっていますが、ここら辺が限度かと思います。

 

このように、同じ１小節でも伝えたい内容が大きく変わってしまいました。英語では『わたしはあなたを愛してる』と伝えられたのに、日本語では誰が誰を愛してるのかわからなくなりました。これが日本語の曲が口数と情報量が少ない理由です。

 

日本語で作詞する場合、限られた字数の中でいかにして情報を伝えるかが課題になってきます。うまく言葉を選べば、『英語より口数が少なく、多くの情報を含ませる』こともできます。

 

今回は『一人称・二人称』を考えていきたいと思います。

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僕・君のセット

僕・君は今の日本の曲で１番の使用率なのではないかと感じています。例を見ていきましょう

宇多田ヒカル – traveling

仕事にも精が出る　金曜の午後
タクシーもすぐつかまる　目指すは君

とあるように、『僕』は平日週５勤務のサラリーマンのようです。途中部分で

ついに僕は君に出会い　若さ故にすぐにチラリ

と出てきます。『若さ故に』と使う場合、その若い時を過ぎていて思い出している状況だと言えます。『僕』は比較的若い年齢層を想定して使うことが多いので、この歌詞では『２５歳〜３５歳』あたりなのではないかと思います。

性別に関しては特に特定できる部分はなく、女性から男性へ向けた曲としても十分にありえる内容になっています。

立場を考えると、恋人同士のようなので対等な関係に感じます。

 

主人公データ：性別不明　年齢は『２５歳〜３５歳』立場は対等

ギンガムチェック / AKB48

ギンガムチェック　君が着てる
半袖シャツ　マニッシュだね

マニッシュという言葉が出てくるので、『君』の性別は女性だと分かりました。この部分がなければ性別判断はできないような内容になっています。AKB系の楽曲はファンが彼女達に歌うことを想定したものが多いので、男性目線の歌詞と考えるのが無難かと思います。女性目線の楽曲は『私』が使われているような気もします。

自転車を押して歩く　君が無邪気に笑う

海岸通り　バイト先まで

上記の部分から年齢は特定しづらいですが、青春を思わせるような印象を受けます。バイトをしているので１５歳から上です。

立場は、『僕』が『君』に想いを寄せている内容ですが、お互い友達以上恋人未満な感じもしますので、対等か『僕』がやや下のようです。

 

主人公データ：性別男性　年齢は『１５歳〜２５歳』立場は対等、もしくは『僕』がやや下

Mr.Children「君が好き」

夜の淵 アパートの脇
くたびれた自販機で二つ 缶コーヒーを買って

上記２曲とは変わって大人びた印象を受けます。『アパートの脇』や『くたびれた自販機』という言葉によって青春が過ぎ去って疲れ果てた現実を見ているように感じます。性別を判断できるものは出てきません。

君が好き　この響きに 潜んでる温い惰性の匂いがしても

純粋な気持ちでの『君が好き』が言えなくなってしまうほどいろいろな経験を積んできたような印象です。ですが、ここで一人称が『僕』であるために少し若さも感じます。だいたい『２５歳〜４０歳』ほどでしょうか。これが『私』だったらもっと年齢層は上がっていたかと思います。

『僕』が『君』に抱く感情のみの歌詞なので、『君』の描写はなく立場はわかりませんが、対等な関係にあると感じます。

 

主人公データ：性別不明　年齢は『２５歳〜４０歳』立場は対等

 

３曲を紹介しました。ここから『僕・君セット』の特徴を考えてみます。

 

僕・君のセットの特徴

・男性目線のようにも聞こえるが性別は不明。

・年齢は１５歳〜４０歳。幼く、若々しく、青春を感じさせる年頃

・立場は対等、もしくは『僕』は『君』に対してやや下

このセットを使うときのポイントは、『僕』がやや下な所だと思います。『君』がやや上なのではなく、へりくだった使い方です。ネガティブな感情の時にも有効です。

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俺・お前のセット

どんどんやっていきましょう！

Captain of the Ship / 長渕剛

なぜか俺・お前セットの曲は動画があまりないですね．．．

我慢ならねえ たったひとつの俺の純情が激烈な情熱に変わる

強い男のイメージがすごく伝わってきます。『俺』を使う時点でほぼ性別は男性だと決まります。女性目線での『俺』は歌では出会ったことがないですね。世の中への怒りのようなものを歌っているので、年齢は１０代にはとても感じません。『２５歳〜５０歳』ほどでしょうか？大人だけどエネルギーがある印象です。

いいか! 羅針盤から目を離すな お前がしっかり舵を取れ!!
白い帆を高く上げ 立ちはだかる波のうねりに突き進んで行け!

『お前』の性別は不明です。自分自身も『お前』に含まれているような、自問自答なようにも聞こえます。立場は明らかに『俺』が『お前』より上ですね。命令口調なのでかなりの差があるように感じます。

主人公データ：性別男性　年齢は『２５歳〜５０歳』立場は『俺』が『お前』よりかなり上

湘南乃風 「純恋歌」

大親友の彼女の連れ おいしいパスタ作ったお前
家庭的な女のタイプの俺 一目惚れ

パチンコ屋逃げ込み 時間つぶして気持ち落ち着かせて
景品の化粧品持って 謝りに行こう

相手のことを女と言っているので、性別は男性です。『パチンコ屋』や『景品の化粧品』が出てくるので、２０歳よりは上ですが、『大貧民負けてマジ切れ』するぐらいなので若い印象も受けます。年齢は『２０歳〜３５歳』ほどでしょうか。

立場は『俺』が『お前』より上です。命令口調は少なめで、『俺』が引っ張っていくというような男性像です。内心は『お前』を慕っているので、一見上から目線のようですが対等なようにも感じます。

主人公データ：性別男性　年齢は『２０歳〜３５歳』立場は『俺』が『お前』よりかなり上、内心は慕っている

雨上がりの夜空に / RCサクセション

俺らのポンコツとうとうつぶれちまった

おまえについているラジオ感度最高!

隠喩を多く含む歌詞で、男性目線だということが明確にわかります。年齢は１０代とは言いづらいですが、若いエネルギーを感じるので『１８歳〜３５歳』としておきます。

こんな夜に おまえに乗れないなんて
こんな夜に 発車できないなんて

立場は『俺』が『お前』より上。こちらも上から目線のようで『お前』を慕ってるような印象を受けます。『機嫌直してくれよ』とお願いする箇所もあるので、対等に近いかもしれません。

主人公データ：性別男性　年齢は『１８歳〜３５歳』立場は『俺』が『お前』よりかなり上、内心は慕っている

 

俺・お前のセットの特徴

・性別は男性。

・年齢は１８歳〜５０歳。男らしさとエネルギーを感じる年頃。

・立場は『俺』が『お前』よりかなり上。内心は対等と感じるときもあり、時には下になる

このセットを使うポイントは男らしさにあると思います。『お前』を引っ張っていく力強さを表現したいときに使うと効果的です。

私・あなたのセット

卒業写真 松任谷由実

悲しいことがあると 開く皮の表紙
卒業写真のあの人は やさしい目をしてる

やや女性目線のようにも感じてしまいますが、性別は不明。青春時代を振り返っていて、すでに落ち着いているような印象を受けるので年齢は『３５歳〜６０歳』とやや高めでしょうか。

人ごみに流されて 変わってゆく私を
あなたはときどき 遠くでしかって

流されていく弱い『私』を叱ってほしいと『あなた』にお願いしているので、立場は『あなた』が『私』よりやや上と言えます。

主人公データ：性別不明　年齢は『３５歳〜６０歳』立場は『あなた』が『私』よりやや上

恋するフォーチュンクッキー / AKB48

性格いいコがいいなんて男の子は言うけど
ルックスがアドヴァンテージ
いつだって可愛いコが人気投票1位になる

男性に向けた曲なので性別は女性です。年齢はとっても分かりづらいです、幅広い層に合うように時代や年齢を感じさせる言葉が入っていません。年齢不詳としておきます。

あなたのことが好きなのに私にまるで興味ない
何度目かの失恋の準備

立場は『私』が『あなた』よりやや下です。『私も見て』と自己主張する場面もあるので、そこまで差はなく対等に近い『やや下』に感じます。

主人公データ：性別女性　年齢不詳。立場は『私』が『あなた』よりやや下

あなた　小坂明子

もしも私が家を建てたなら
小さな家を建てたでしょう

女性目線にも男性目線にも取れる歌詞なので、性別は不明です。年齢は、家を建てられるだけの財力があるという点、それが過去形だという点で『３５歳〜６０歳』ぐらいかと。家を建てる想像だけかもしれませんが、落ち着いている印象を受けるので年齢層は高めかと思います。

あなたがいて欲しい
それが私の夢だったのよ
愛しいあなたは今どこに

自らが家を建て、あなたはそこにいるだけでいいと歌っているので、立場は『あなた』が『私』よりやや上と言えます。『あなた』がいなくなってもまだ探しているので、差があることは明白です。

主人公データ：性別不明　年齢は『３５歳〜６０歳』立場は『あなた』が『私』よりやや上

 

私・あなたのセットの特徴

・女性目線にも思えるが、性別は不明。

・年齢は３５歳〜６０歳。大人の落ち着きも感じるが、幅広い年齢層にあてはめられる

・立場は『あなた』が『私』より上。『あなた』の立場を立てるようになっている

このセットのポイントは、『あなた』が絶対的に正しいところです。『あなた』がいて成り立つ歌詞が多く、落ち着いた雰囲気によく合います。

その他・特殊例

セットにはできないのですが、たまにあるイレギュラーなタイプを見ていきます。

aiko-『カブトムシ』

少し背の高いあなたの耳に寄せたおでこ
甘い匂いに誘われたあたしはかぶとむし

あたし・あなたのセットです。ほぼ『私』と『あたし』は一緒ですが、女性らしさがほんの少しだけ増しているようにも感じます。

吉田拓郎 人間なんて

何かがほしいおいら
それがなんだかわからない

『おいら』を使うと幼さというよりも無気力さが出てくるかと思います。『ちっぽけな自分』を『おいら』としているように感じます。また、地方のような印象も受けますね。

センチメンタル・ジャーニー / 松本伊代

伊代はまだ１６だから

曲全体としては私・あなたのセットですが、この部分だけ固有名詞です。一人称を自分の名前にする女性は幼さを感じさせますね。幼い上に『１６だから』と若さをさらに強調するので若々しさが引き立ちます。

上記のもの以外にも『わし』『わて』『おいどん』など年齢や地域まで限定させそうなものもいっぱいあります。『あたし』はまだ幅広く使えますが、それ以外はその単語のイメージが強く共感する相手も少なくなります。センチメンタル・ジャーニーのように１ポイントで使うのが効果的かと思います。

組み合わせ方でも表現が変わる

各一人称・二人称の組み合わせの特徴がなんとなく掴めてきたかと思います。性別・年齢・相手との立場をグラフで表してみました。

このように一人称・二人称を何にするかを決めることで聴き手に特定のイメージを与えることができます。最初に『日本語は情報量が少ない』と言いましたが、一人称・二人称に持つイメージを理解してうまく使えば、少ない文字数で多くの情報を与えることができます。

普段聞いていて共感している曲の歌詞に何が使われているかを考えると、自分自身が女性的なのか男性的なのか、精神年齢はどれくらいなのか・もしくはどの年齢に憧れを持っているのか、置かれている立場はどうなのかが見えてくるのかもしれません。

 

また作詞する側は、この一人称・二人称の組み合わせを工夫することで違った印象を与えることができます。

・僕とお前のセット　自分自身を弱い立場とネガティブになりながら『お前』のことも下に見ているという、後ろ向きな印象です。

・俺とあなたのセット　自分は強く偉いとしながらも、それよりさらに『あなた』は素晴らしいと表現するセット。姉さん女房な印象でしょうか。

・私と君のセット　性別も年齢もよくわからない、ミステリアスで少し怪しさを感じます。深い意味を持つ歌詞によく合いそうです。

余計な情報は省く

一人称・二人称を選んだ後は、それが与える情報をまた別の部分で与えるのはなるべく避けたほうが良いと感じます。

『伊代はまだ１６だから』は、あえて幼さに１６という幼い年齢を重ねています。前後の歌詞では『私』を使用していて、これはピンポイントに『伊代』が出てきて映えるのであって、常に使っていると味が濃くなってしまいます。

『俺は男の中の男だ』と歌詞をつけると、むさ苦しくて仕方がありません。あえて男臭さを出したい場合は良いですが、無意識にそうなってしまった場合は省いていく作業が必要です。

 

これは一人称・二人称だけでなくすべてに言えます。『月明かり』と出てきたら『夜』はなるべく使わないほうが良いでしょう。『２月』と出てきたら『冬』は避けましょう。このように、響きや歯切れが良い・あえて重複する必要がある場合以外は、削ってしまって他の情報を入れてあげると情景が見えやすくなります。

 

おまけですが、重複がメインの曲を紹介しておきます。

マイナスターズ － 夜の夜霧

さまぁ〜ずの二人からなるバンドの曲です。ほとんどが重複した余計な情報なのですが、『白い白い虫』や『俺はたかはしたかしです』の重複のようで違う！という大ボケのための前フリなのでこれはありです。三村の『重複の歌なんだろ？重複の歌ってなんだよ！』がすべてを物語っています。

 

話を戻します。

また逆に、一人称・二人称が与える印象をひっくり返してしまうのも面白さの１つです。『俺は女だ』とすれば、男以上に男として生きなければならない何かがあるように感じるし、『僕は６５歳』は６５歳にしてもまだまだピュアな精神を保っているようにも感じられます。

現在の売れ線歌詞を考える

ブロガーのススワタリさんは毎週オリコンTOP10歌詞の集計をされています。

これは２０１５年６月３日の記事ですが、この時点で『君』は殿堂入りしています。『僕』も２位にランクインしていて、『僕と君』が今一番売れる歌詞なんだと受け取れます。

また最後に

なぜ「あなた」と「君」で、これだけの差がつくのだろうか。「君」がこれだけ多いなら、「あなた」ももっと強くてもおかしくないはずだが。

と、あります。

これは現在の音楽を聴く層の大半が『私とあなた』より『僕と君』に共感を得ているからですね。

 

つまり、男女問わず主人公になれて、青春を思い浮かべるような曲が好まれているということです。

 

今の時代を映しているかもしれません。男女差別をなくしたい思いが『僕と君』に共感しているのかも。

毎週書かれているので、気になる方は読んでみてください。

最後に

作詞をする際は言葉選びをこだわることは絶対です。聴き手にどんな印象を与えたいかを考えて選ばなければいつまでも伝わらないままです。

作詞する際には、一人称・二人称から始めてみてはどうでしょうか？

GANO

続編を書きました！

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