『メッセージ』はSFかヒューマンドラマか。SFを知った気でいたと反省してしまうほどの名映画
公開日:
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最終更新日:2019/01/20
映画
『メッセージ』はSFかヒューマンドラマか
どうも、GANO(@Past_Orange)です。
2017年5月19日に日本でも公開となった『メッセージ』を観てきました!
1998年発行のテッド・チャンによるSF短編小説「あなたの人生の物語」を原作としたSFドラマとなっています。
全く新しいSF映画なんて言われてますよね。
では、まず予告編を観ていきましょう!
映画『メッセージ』本予告編
予告を見る限り、娘を亡くした言語学者のルイーズが、地球外生命体と会話するために奮闘する、そんな内容に思えますね。
えぇ、間違ってはいません。間違ってはいませんが、合ってもいません!
『メッセージ』はこんな人にオススメ!
どんな人が『メッセージ』を楽しめるか考えてみました。
・SF映画が大好きな人
・深く考察することが好きな人
・アクション要素を求めない人
こんな感じ。
まずSF映画が好きで好きでいっぱい観てるよ! って人。これはぜひ観ていただきたい。なぜかって言うと、観てれば観てるほど「マジかよ……」ってなるから。
SF好きだと話の流れを、きっとこうなるだろう、こうなってきたらこっち方面かな? と観ながら先を読んでいっちゃうと思うのですが、その先読みナメんなよ! とドゥニ・ヴィルヌーヴ監督がぶん殴ってくるので、ぜひ観て欲しい。
そして考察するのが好きな人。この映画ははっきりモノを言ってくれない映画なんですね。ある程度観る側が考えなくちゃいけない。それが楽しいって人にオススメ。
最後にアクション要素を求めない人。SF=派手なメカでのアクションぐらいに考えてる人にはもう絶対向きません。静かな映画です。トランス・フォーマー観ましょう。
ではネタバレを含んだ感想を載せていきますね!
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『メッセージ』は読みを何回も壊してくれる!
『メッセージ』予告から「娘を亡くした言語学者のルイーズが、地球外生命体と会話するために奮闘する」物語なんだと読み取れます。
これは間違ってはいません。予告を観なかったとしても、映画開始から途中まで観客はそう思うはずです。
でも実際は違った! このミスリードを誘う構成が素晴らしい映画なんですね。
地球外生命体との対話から失った娘を思い出し……てなかった!
音声での意思疎通は不可能と判断したルイーズは、文字による会話にシフトします。
どうやればまったく違う言語を理解できるか、未知の言語を認識するための手順は興奮しましたね〜。
今までの宇宙人との交流映画ってまったく通じない(もしくは雰囲気だけで判断してミスってドンチャン)か、宇宙人側のスペックがハイパーで人間の言語に合わせてしゃべってくれたり、「脳に直接喋りかけてます」でしたよね。
今までは退屈で間延びするからカットしていた言語認識の部分を、メッセージではがっつりやってくれた。退屈も間延びもせずに、知的興奮を与えてくれています。とっても重要なことだから。
言葉の通じない相手と徐々に距離を詰めていく行為は、まるで小さな子供とのコミュニケーションのようでした。
ヘプタポッドとの対話の中、娘ハンナとの思い出がフラッシュバックするルイーズ。
「あぁ、まるで幼い頃のハンナのようだわ」
と、心の傷を癒していく。宇宙という壮大なスケールに触れるで、非常にパーソナルな部分が出てくるという対比が面白い映画なのか〜
……って、それが間違っていた!
となりまして。ルイーズが急に言うんですよヘプタポッドに。「この子は誰?」 まじかよ、記憶喪失系?
ルイーズだけが記憶喪失している?
そういえば娘との思い出のシーン
ハンナ「ママ、みんなが協力して幸せになるってことを表現する言葉があったはずなんだけど」
ルイーズ「協力? ウィン・ウィン?」
ハンナ「違う、もっと数学的な」
ルイーズ「そういうのはパパに聞いて」
パパに聞いて? 数学的なことは??
イアンって数学者だよな、ってことは夫はイアンなの?
でもイアンとは初対面だったはずです。ルイーズの記憶を呼び起こさないよう大規模な創作が行なわれている可能性もなきにしもあらずですが、「トータル・リコール」や「ゲーム」みたいな感じとは思えないし。
夢オチみたいなだとガッカリする確率高いな〜なんてここいらでは考えていましたよ。
地球外生命体の言語を読めるようになって未来が見える……ってことでもない!
ハンナとルイーズの会話のシーン、最初のフラッシュバックではルイーズが答えを出さずにハンナが階段を上っていっちゃうんですね。
そんなことを思い出しつつも、現在は各国との通信が切れて慌てて会議中。
「各国と協力しなければ、”非ゼロ和ゲーム”じゃないと!」
この会話で、あの時のハンナが求めていた答えは「非ゼロ和ゲーム」だったんだと気づきます。
するとまたフラッシュバック。今度はハンナが階段を登りきる前に「非ゼロ和ゲームじゃない?」と発するルイーズ。
あれ、過去変わってない? どっちが本当の記憶??
そして、なんとかして中国のシャン上将に連絡を取り、攻撃を中止することをお願いしなければならない時。
1年半後のパーティーでシャン上将と会う未来が見えるんですよね。
シャン上将「1年半前の君の言葉で世界は救われた。君の電話で世界は1つになった」
ルイーズ「でもあなたの電話番号を知らないからかけることができない」
シャン上将「(携帯を見せながら)ほら、これで電話番号が分かった」
この場面衝撃。さらに誰も知らないシャン上将の奥さんの死に際の言葉をその場で教えてもらい、現在の意識でシャン上将に電話をかけ伝えます。
多分その時点では、シャン上将の奥さんは生きてたんじゃないかなと僕は思います。
前者は今知ったことを過去に反映させています。後者は今やるべきことを、未来から教えてもらっている。
もしかして、時間という概念がなくなっている!?
時間という横軸な考えではなかったと分かる
時系列が存在しないヘプタポッドの言語に触れることで、ルイーズは過去と未来を現在と共に感じることができるようになっていたんです! これなかなか表現しづらいんですが。
僕たちの世界の時間は横軸で、過去から未来へ進んでいきます。
そこに未来から過去に飛んでくる人が現れたり、未来から過去に逆行して生きる人がいたのが今までのSFだったと思います。
今回は、過去から未来に生きながら(特に肉体)も、過去・現在・未来を同時体験している!
横軸的な考えではなく、限りなく点な状態。想像しようとしてもできないのですが、未来予知とはまた違う感覚であると思います。
未来のヘプタポッド言語の著書に触れることで、今やっとヘプタポッド言語が理解できるようになる。
ありえないだろ! と考えてしまうかもしれませんが、そんなことを考えてしまう横軸的な時間という概念を超越した存在にルイーズはなったんですね。
そしてヘプタポッド言語を人類で共有することで、新たな次元へ人類は到達することになるでしょう。
時間を横軸ではなく点で感じるようになった3000年後にやっと、今現れたヘプタポッドを救うことになるのです。
『メッセージ』はコミュニケーションを取ること、相手に想いを伝えることを考えさせる
「メッセージ」は異星人との対話をメインのように見せかけて、実際は自分自身、人間とは何かを考えることがメインとなっています。
未知なる存在との交流、宇宙という大きなものを理解するためには、まず自分や家族という小さな存在を理解することが大切だということですよね。
だから、なぜヘプタポッドが来たのかは全然重要じゃない。3000年後に何があるかなんてのは問題ではないんです。
我が子や夫という近い存在でも、しっかり伝えなければいけないんだよというメッセージ性を感じます。
逆に、言葉さえあれば異世界のヘプタポッドだって、全世界の人々とだって心を通わすことができる。
言葉こそ最大の武器なんだよということが言われています。「ペンは剣よりも強し」の言葉の通りですね。
異星人との交流を描くことで、身近な人にしっかり気持ちを伝えるべきだと思わせてくれるとても良い映画でした。
『メッセージ』のヘプタポッドの表義文字が美しい
ルイーズが音声は無理だから文字で会話しようぜ〜と「HUMAN」と出すことで始まる、ヘプタポッドの表義文字。
これが美しいんですね〜。丸なんですよ丸。
予告で散々目にしていたこの丸い表義文字、これこそ最大のネタバレだったなと観終わると思うわけです。
僕たちの書く文章は上から下、左から右、右から左と始まりがありどう進みどこで終わるかが分かるようになっています。時系列も重要だからですね。
そこでヘプタポッドの表義文字。丸だからどこから始めるかわからない!
どこから始めるかではなかったんですね、始まりも終わりもない、時間がなかった。だから丸。ドーナツどこから食べるとかないですよね。
時間軸がない状態をこの丸で表現している。そう考えると、新しい知識を与えてくれているようで美しく見えてきませんか?
余談ですが、音楽にもこういった表現がありまして。円状の譜面ていうのがあるんですね、たしか現代音楽で。
どこから演奏しても良いし、どこで終わっても良いという、ずっとぐるぐる回る譜面が。全然資料でてこないけど。
音楽とは時間を感じるため横軸ですが、それをも超越したいという現代音楽作曲家の思想が反映されているんです。近いものを感じましたよ。
『メッセージ』の音楽に圧倒される
「メッセージ」はアカデミー賞音響編集賞を受賞しています。
時間という横軸を点で感じることが本作の重要なポイントですから、流れる音楽も横軸ではなく縦軸的だと僕は感じました。
美しいメロディーとか、複雑なリズムとか、多くの映画はどれも横軸なんですよね。
そこで「メッセージ」で流れる音楽、というか音響はその多くが1発ドーンとくるものになっています。
重低音と共に、和音がドーンと。雅楽の笙の音を聴いているようでした。
この笙という楽器、吹いても吸っても音を出すことができます。
途切れることなく(吸うと吐くを切り替える時にちょっと途切れるけど)音を出し続けることができます。だから始まりも終わりもない。
呼吸すれば続く、人生のようですね。
生きる中で過去も未来も同時に感じる、まるで雅楽の笙のような映画なので、このような音響がつけられているのかなと感じました。
非常に美しく、そして恐怖も感じる音楽となっています。
逆に日常的な映像を出す場面では美しいメロディーの曲を使うので、そのギャップに涙腺崩壊。
Max Richter – On the Nature of Daylight
感情を揺さぶられる音響編集の映画でした。
『メッセージ』を観て思い出した映画
さて、「メッセージ」を観て思い出した映画をちょっと紹介。
コンタクト
こちらも異星人との交流をテーマにした作品でした。少しずつかもしれないが、勇気を出して一歩踏み出せば相手との距離はきっと縮められる、そんなメッセージ性も近いですよね。
「メッセージ」で日本の北海道にも謎の飛行物体が現れていましたが、そういえば「コンタクト」での移動装置2号も北海道でした。
首都じゃなく北海道なんだなと、「コンタクト」と繋がりがあるかもなんて考えてみました。
インターステラー
宇宙の恐怖や多次元の体験、遠く離れた親子の愛。話としては近くないですが、セットで観てもいいくらい伝え方が似ていると感じます。
そういえば、「コンタクト」でのジョディ・フォスターの相手役はマシュー・マコノヒー。
2001年宇宙の旅
メッセージの飛行物体(ばかうけ)、のっぺりとして摑みどころのない感じ、モノリスを感じますよね。
ボーマンが人類を超越した存在「スターチャイルド」になる部分も、時間を点で感じるルイーズと近く感じますね。
「メッセージ」の曲「ヘプタポッドB」に、リゲティ「レクイエム」と近いものを感じたり。複数人での声の表現ってだけですがね。レクイエム怖すぎ。
Jóhann Jóhannsson – Heptapod B
Ligeti Requiem
未知との遭遇
ここはおまけかな。名作と言われていますし、異星人となんとか交流するという内容は似ています。1度は観ても良い。
ただ僕は苦手かな〜。パニックになる人々、おかしなことばかり言って暴れたり、痛々しさが映像のほとんどを占めてますから。
最後に
「メッセージ」はかなり好きですね。時間軸がないという考え方を映像でしっかり観るのは初めてだし、理解できるレベルまで下げてくれてるから楽しめました。
そして全てを理解したルイーズの気持ちを考えると、もう涙がボロボロと。辛すぎる……
ぜひSE好きに観て欲しい映画です!
GANO
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