映画『グレイテスト・ショーマン』がテンポと引き換えに削ぎ落としたもの。果たしてP・T・バーナムはヒーローなのか。
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最終更新日:2019/01/20
映画
『グレイテスト・ショーマン』がテンポと引き換えに削ぎ落としたもの
どうも、GANO(@Past_Orange)です。
2018年2月16日に日本でも公開となった『グレイテスト・ショーマン』を観てきました!
実在した興行師P・T・バーナムの半生を描く映画となっています。
では、まず予告編を観ていきましょう!
映画『グレイテスト・ショーマン』予告A
音楽いっぱいのミュージカル映画ということがわかりますね!
実話に基づいた映画というのもポイントです。
『グレイテスト・ショーマン』はこんな人にオススメ!
どんな人が『グレイテスト・ショーマン』を楽しめるか考えてみました。
・ミュージカル映画が好きな人
・テンポよく進む映画が好きな人
・映画『ラ・ラ・ランド』にはまらなかった人
こんな感じ。
やっぱりミュージカル映画ですので、好き嫌い分かれちゃいます。そんなところで歌わないだろ! なんて突っ込んじゃう人はミュージカル楽しめないよね。
そして映画にテンポを求める人。長いセリフ回しや芸術的な映像で疲れてしまう人は、映画にテンポ感を求めていると思います。『グレイテスト・ショーマン』は大丈夫、テンポよくコンパクトにまとまっています。
そしてそして、大ヒットした『ラ・ラ・ランド』にはまれなかった人。宣伝文句に『ラ・ラ・ランドのスタッフが!』なんて出てるのですが、実は映画作品としては全然別物です。
どう違うのかを確認しに行くのも楽しみの1つです。
ではネタバレを含んだ感想を載せていきますね!
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『グレイテスト・ショーマン』の音楽に魅了される
ミュージカル映画なので、主役はヒュージャックマンではなく音楽! なんて言ってしまいたくなるぐらい音楽に溢れた映画です。
2018年ゴールデン・グローブ賞では、主題歌である「This Is Me」が歌曲賞を受賞しました。
The Greatest Showman | This Is Me Lyric Video | 2018
差別され存在を隠されてきた彼らにも、光を見る権利がある。
私は私だ、誇りを持って生きるというメッセージが込められた歌となっています。
とっても大切なメッセージですよね。
他にもバーナムがフィリップを引き込む際に歌われる「The Other Side」、どんなに光を浴びようと満たされない心をリンドが歌う「Never Enough」などなど名曲揃いです。
これこそミュージカル。スケールが小さいような印象も受けますが、それはこの映画がミュージカルであり舞台をイメージして作られているからだと僕は感じます。
『グレイテスト・ショーマン』でバーナムはヒーローではない
ここからは苦言、というか補足というか。僕はこの映画を手放しで褒めることはできないなと思っています。
『グレイテスト・ショーマン』はP・T・バーナムの半生を描いているわけですが、開拓者であり成功者であるという部分にのみフォーカスを当てすぎではないかと感じています。
テンポを求めるために捨てた部分が多くあり、その捨てた部分が批判を生んでいるというわけです。賛否両論な理由ですね。
バーナムは貧乏な家庭に生まれ、生きるために窃盗や詐欺を行いのし上がっていきます。
差別をせず身体的障害や人権が与えられていない人たちを受け入れるような描写にも見えますが、実際は自分の利益のために利用しただけでもあります。
それは作中でも描かれていたのですが、凄腕のショーマン像ばかりが前面に出てしまっているのも確かです。
差別の目を持ち強欲だったバーナムこそが、この映画で最大の悪でもある。その描写が少なく、反省シーンもほんの少し。
落ちるところまで落ち、そこから心を入れ換えたのならメッセージが伝わるのですが、どうも弱く感じます。
この部分に関しては、観終わった後に補足が必要になってくるのです。
『グレイテスト・ショーマン』で描かれなかった団員たちの立場
バーナムにスポットが当たっていすぎて、サーカス団員たちの苦労がほぼ描かれません。
なぜ彼らは「変わり者求む」のチラシに集まってきたのでしょう?
黒人で空中ブランコができるウィーラー兄妹。彼らがどんな目を向けられていたのか。
描写としてはアンが憧れの劇場へ入ろうとした際に、フィリップの父親に「メイドを連れて恥ずかしくないのか」と言われたことぐらいでしたね。
アメリカにて奴隷解放が宣言されたのが1862年のことで、この映画の時代は1840年前後。
肌の色で判断され人権がなかった時代で、ウィーラー兄妹はその苦しみから逃げてきた人たちだったのです。
奴隷として使えるのが普通な世の中、ウィーラー兄妹に仕事はありません。生きるために大道芸として空中ブランコを身につけていたのではないでしょうか。
アジア系の双子も肌の色、容姿の違いで差別され仕事がない存在でした。
全身タトゥーだらけの男性、彼がなぜ見世物なのか。
彼はタトゥーの練習台になることで生計を立てていた人物なんですね。入れたくて入れているわけではなく、お金と引き換えに肌を売っていたんです。
髪も肌も真っ白な女性、彼女は先天性白皮症であり差別を受けていたのです。道具として扱われていた人たちなんですよ。
その他にも団員はいたのですが、まったく背景が描かれていません。
そんな彼らがしっかり仕事ができる、スポットを当ててもらえると集まってきたのがバーナムのサーカスなのですね。
じゃあ彼らは幸せだったのか、ここは難しいところ。
登場する差別に苦しんできた人たちは見世物にされても強く生きていますが、強い心を持った人たちだけではないはずです。
いない存在として陰に隠されていた人生から、見世物として無理やり小屋に送られる人生に変わってしまい、違う苦痛を感じた人生になった人たちも多くいたはずです。
バーナムは新しいショービジネスを作った人ではありますが、同時に嘘と詐欺と人権侵害を推し進めた人でもあるのではないか、と僕は感じました。
1932年の映画『フリークス』では彼らにスポットを当てた内容となっていて、問題視され30年公開禁止となりました。
『グレイテスト・ショーマン』は補足が必要な映画なので、安易に成功者のお話として消化されないで欲しいと思います。
『グレイテスト・ショーマン』でわかりづらかった階級制度
バーナムが生まれたコネチカット州はイギリスの植民地だった場所です。イギリスの階級制度が色濃く残っていたのでしょう。
バーナムは仕立屋の息子として描かれていますね。
上流階級の主人の家に行き服を仕立てる、自分の服はボロボロなのに。
同じアメリカ人でも親の職業によって差別されていたのですね。
バーナムの娘もやはり、仕立屋の息子でサーカスを率いるバーナムの娘だということで差別を受けます。
バレエは中流階級、上流階級が嗜むもので、労働者階級であるバーナムの娘がバレエをすることはおかしなこととして差別されていたんです。だからいじめられていたんですね。
階級制度も努力でくつがえせる! というメッセージがあったのでしょうが、階級の説明がないあまりに伝わりづらくなっていたと感じます。
逆にフィリップは上流階級の生まれであるため、上流階級なのに労働者階級と仕事をするなんてと冷たい目線を送られていました。
その階級制度に反発し、アンと、サーカス団員たちと生きていくことを決めたフィリップこそ彼らのヒーローだったと僕は感じます。
『グレイテスト・ショーマン』は他の映画を観て完成する
『グレイテスト・ショーマン』は偽物から本物なってやるという気迫を感じさせる内容を狙った映画でしたが、奇しくも映画自体が「バーナム・ミュージアム」になってしまった作品です。
なぜ今この映画を出さなければいけなかったのでしょうか。
映画『ムーンライト』で黒人・ドラッグに溺れた母子家庭・ゲイ・貧困というマイノリティを描いた作品が評価される今に。
黒人差別をホラーとコメディで表現した映画『ゲット・アウト』が評価される今に。
映画『デトロイト』や『ブラック・パンサー』が公開するタイミングに合わせて、なぜこんなにも説明の足りない映画を出したのでしょう。
今は差別問題をしっかり説明し繰り返さないよう伝えていかなければいけない時代だとも言えます。
『グレイテスト・ショーマン』を観た子供たちには、大人がしっかり補足をしてあげなければいけませんね。
近いものとしてディズニーの『美女と野獣』や
人間を動物に置き換えることで才能があれば輝けるというテーマにだけ特化した『SING』があります。
合わせて観ると補完できるのではないでしょうか。
最後に
音楽のエネルギー溢れる映画でした。
そのエネルギーが、なぜ差別が起こるのか。怒ってきたのかを説明するきっかけに変わってくれると良いですね。
GANO
ガンアクションもっと見せてくれ!
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